アメリカでは超有名な農耕トラクターのパビリオン
アメリカ中西部を車で運転すると、緑と黄色がトレードマークの農耕用トラクターを目にすることがある。農業トラクター部門で世界一の売上げを誇るジョン・ディア社 John Deere が製造するベストセラー機だ。名前は知らなくとも、その配色を見たことがある、という人は多いのではないだろうか。
そのジョン・ディア社の展示館が、シカゴから西に約270km(車で約3時間)行ったイリノイ州モリーン Moline という町にある。1997年8月にオープンして以来、現在まで世界50カ国から200万人が訪れている町の名所だ。
●農家の生活を一変させたトラクターの登場
鍛冶屋であったジョン・ディアは、1837年にジョン&カンパニー(通称ジョン・ディア社)を創業し、世界で初めて鋼製の鋤(すき)を販売した。当時の中西部はあたり一面に草原が広がり、湿気を帯びた粘着性のある土壌がほとんどであった。そのため、鉄製の鋤では土が付着し何度も取りのぞかなければならなかったのである。しかし、ディアが作った鋼製の鋤は土が付かず、しかも強靭であったことから好評を博した。
創業時は1年に100本の鋤を製造するのが精一杯であった。しかし、1948年工場をミシシッピ川流域に移し、水力発電を利用した機械化に踏み切ったことが大量生産を可能にした。1850年代には1年で5000本、1890年代には1年で15000本を製造するにいたった。また、1870年代後半には馬に引かせる二輪車の鋤が作られる。そしてそれから約40年後の1918年にはエンジン会社を買収し、ジョン・ディア社初の農耕用トラクターを完成させた。それまで馬が牽引していた鋤に変わって乗用型トラクターが誕生したことから、農業界に革命をもたらしたといわれている。
●アメリカの農業の歴史を知るうえで、見逃すことができない
展示館には、ジョン・ディア社が最初に製造したとされるトラクターのウォータールーボーイ Waterloo Boy や大量生産に初めて成功したモデルD The Model D 、人間の倍以上ある大きさの 844K型ローダー 844 K Loaderなど約10台のトラクターが展示されている。うれしいことに、ほとんどのトラクターに試乗することが可能なのだ。さらに、中西部の基幹産業である農業の歴史を写真やパネルを通して知ることもできる。
●ジョン・ディアのように走るトラクターはほかに存在しない
ジョン・ディア社の Deere と鹿の Deer の語呂合わせから、軽快に飛び跳ねる鹿が企業ロゴとして1876年に採用された。また「ジョン・ディアのように走るトラクターはほかに存在しない」をキャッチコピーに、アメリカの雑誌 『フォーチュン Fortune 』で「最も尊敬される会社」のひとつに選ばれるほどの優良企業へと成長した。
フォードが、T型フォードの大量生産で自動車史を変えたように、ジョン・ディア社もモデルDを開発したことでアメリカ農業の歴史を塗り替えた。ジョン・ディア・パビリオンは、アメリカ農家の生活やトラクターの変遷を知ることができる貴重な展示館だ。
■シカゴから西へ270kmのイリノイ州モリーン
■遠くからでもはっきりと認識できる緑と黄色のジョン・ディアは、トラクターの王様とも呼ばれている
■企業ロゴの軽快に飛び跳ねる鹿
■人間の倍以上ある大きさの 844K型トラクター。実際に運転席に座ることができる
■ジョン・ディア社で最初の大量生産に成功した1924年製のモデルD。アメリカの国宝級のものを所蔵するワシントンDCの国立アメリカ歴史博物館にも展示されている
ジョン・ディア・パビリオン
John Deere Pavilion
- 住所:
- 1400 River Dr., Moline, IL 61265
- 電話:
- (309)765-1000
- 営業時間:
- 月~金 9:00~17:00 土 10:00~17:00 日 12:00~16:00
- 料金:
- 無料
- URL:
- www.deere.com/en_US/attractions/pavilion
取材協力
- ●ミシシッピ・リバー・カントリーUSA
www.mrcusa.net - ●デルタ航空
www.delta.com