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地球の歩き方編集部・取材&日記

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2010年07月12日

20世紀最大のスパイ事件を描いた
『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』

「地球の歩き方ロシア編」担当プロデューサー:小山田浩明

ロシアでの取材は今も緊張することが多い。取材者と言えど現地で自由に行動することが難しく、写真撮影禁止の場所も多いからだ。歩き方の取材中にもウラジオストクの港が見える高台でカメラを構えた取材者が、KGBに尋問されるということがあった。しかし、今のロシアは冷戦の時代に比べればずいぶんとオープンになった。映画に描かれた1980年代はもっともっと厳しかったことだろう。

映画に描かれているストーリーは、1980年代にあった実際のスパイ事件「フェアウェル事件」をベースにしたもの。冷戦時代、東西陣営がまだ緊張状態にあったときの物語だ。
主人公は西側の技術情報を集める部署にいたKGBの大佐とロシアに赴任していたフランス人の家電メーカー技師。ふたりの家族も巻き込み、国家を揺るがすスパイ摘発事件へと発展していく。

たったひとりのKGB大佐によりソ連の諜報網が摘発され、その後のソ連の情報収集能力は大きく失われた。1983年4月、フランスから47人もの外交官らが国外追放になったニュースをご記憶の方もいらっしゃるかもしれない。
これだけ大きな情報漏洩事件がなぜ広く知られなかったのか不思議に思ったのだが、漏れてきた情報の重大性ゆえに、各国も沈黙を守ったのだろう。自国の最新科学技術が筒抜けになっていたという事実は衝撃的だ。日本では、時事通信社発行のティエリ・ウォルトン著『さらば、KGB―仏ソ情報戦争の内幕』(絶版)でこの事件が紹介された。

監督は『戦場のアリア』のクリスチャン・カリオン。KGB大佐グリゴリエフ役には、映画『アンダー・グラウンド』を監督したエミール・クストリッツァ、フランス人技師ピエール役は『戦場のアリア』にも出演したギヨーム・カネだ。ふたりともロシア語とフランス語を使い分けながら会話し、お互いの理解・友情を深めていく様子がていねいに描かれている。

映画は実在の人物・事件を元にはしているが、創作も多い。主人公たちの人物像も監督による創作だが、キャラクターがはっきりと立ち、人間ドラマを描くためにはこのような演出・肉付けが必要だったと納得のいく作りだ。一方で、レーガン大統領やミッテラン大統領など実在の人物もストーリー上重要なキャラクターとして登場。当時の記録映像も使われ、映画に真実味を添えている。

映画のロケ地はウクライナとフィンランドがメインだったとのこと。当初は主人公のKGB大佐にロシア人俳優をオファーしていたが、ロシア大使の「アドバイス」により降りてしまったという。ロシアでのシーンは隠し撮り同然のロケだったそうだ。ロシアでの自由な撮影が実現しなかったのも、フェアウェル事件の影響の大きさをうかがわせる。一方、フランスのロケでは映画撮影を初めて許可されたというエリゼ宮が使われた。

「スパイもの」と称される映画は数々あるが、派手なスタントが一切ないのにも関わらず、最後まで飽きさせずに観客を引きつける映画はそうはない。同監督の『戦場のアリア』は実話を元にした映画ながらまるでファンタジーのように感じてしまったが、本作は骨太な作品に仕上がっている。
一見地味だが、緊張感のなかに家族愛を描いたほっとするシーンもあり、あっという間に時間が過ぎた。スパイものにありがちな複雑すぎる仕掛けもなく、人間ドラマをたっぷりと味わうことができる。

奇しくもこの映画の日本公開の直前に、アメリカでロシア・スパイの一斉逮捕が行なわれた。事件は今も相手国内での積極的なスパイ活動が行なわれていることを教えてくれた。
この映画を見ると、今回のスパイ摘発事件のウラをあれこれと想像してしまう。映画の主人公たちの情報交換の様子(公園での会合)は、今回のスパイ事件で報道された方法とそっくり。冷戦後初というスパイの交換も行なわれた。真相が明らかになる日はくるのだろうか。

ジョン・ル・カレの小説や、映画「善き人のためのソナタ」に感動した人には特にオススメ! 反抗期の子供をもつお父さんたちにもぐっとくる映画。心に残るシーンがいくつもある作品だ。

『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』作品データ
原題: L'AFFAIRE FAREWELL
監督:クリスチャン・カリオン
配給:ロングライド

『フェアウェル さらば、哀しみのスパイ』公式ホームページ
http://www.farewell-movie.jp/

2010年7月31日(土)からシネマライズにて公開(全国順次)
共犯者となるふたり■偶然の出会いからソ連崩壊へとつながる情報漏洩の共犯者となるふたり。家族を守る重圧にも悩む

エミール・クストリッツァ■映画初主演とは思えない存在感を見せるエミール・クストリッツァ

実際の撮影はウクライナとフィンランド■ロケハンはロシアで実施されたが、実際の撮影はウクライナとフィンランドで行なわれた

写真はすべて(C) 2009 NORD-OUEST FILMS


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