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フランス映画史の濃〜いところ/映画『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』〈旅の誘い度★★

「地球の歩き方」プロデューサー:栗橋大吉
“映画”の発明というとエジソンを連想するあなた、ひょっとするとフランス人の怒りを買っちゃうかも(って、言いすぎ?)。

実は、エジソンが発明したのはキネトスコープといい、箱の中を覗き込む方式の装置で映像を楽しむものだった。映像を観られるのはひとりきり。現在のように、一度に多くの人が鑑賞できるスクリーン投影方式の映画は、フランス人のリュミエール兄弟のシネマトグラフの発明まで待たねばならなかった。といってもエジソンの発明から遅れることわずか4年の1895年9月、マルセイユの南東の港町ラ・シオタにあるエデン座で、リュミエール兄弟はシネマトグラフを使った内輪の上映会を開催。3ヵ月後には、パリのグラン・カフェ(現在のホテル・スクリーブ)に観客を有料で集めて商業映写を行った。このスタイルこそ今に受け継がれる“映画”そのものである。

だからフランス人の映画に対する矜持のほどは並大抵のものではない。映画の誕生から16年後の1911年には、イタリア出身の評論家カニュードにより映画=第七芸術という「第七芸術宣言」が著され、フランスでは第七芸術が映画の代名詞となった。ここにフランス映画が歩む方向は決まったといえる。映画はひとつの芸術作品――監督、脚本家などの、作り手の美学や哲学を濃密に反映させる――として主張を始めるのである。フランス映画の“味”というか独自性は、こんなところに端を発している。

さらに時は流れ、1950年代後半になると映画制作の下積み経験なしに映画評論家などを経てデビューした新世代の映画監督が表舞台に登場する。ロケ撮影中心、同時録音、即興演出(アドリブ)などの手法を駆使して町に飛び出して撮影された作品群は、センセーションを巻き起こし「ヌーヴェル・ヴァーグ(新しい波)」と呼ばれた。

新しい波は世界を席捲していく。1959年には「大人は判ってくれない」(フランソワ・トリュフォー監督)がカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。続いて「勝手にしやがれ」(ジャン=リュック・ゴダール監督)が公開されると世界は驚愕した。こうしてトリュフォーとゴダールはフランスの新たなうねりを代表する人物として世に出たのである。

本作は、順風満帆な船出をした二人の監督の蜜月時代、そして1968年の「5月革命」でカンヌ国際映画祭を中断させるまでの共闘、その後の反目と決裂まで貴重な資料映像をもとにドキュメント。さらにゴダールとトリュフォーに重用された俳優ジャン=ピエール・レオを登場させ、二人の監督に翻弄される彼の姿を追うことで、監督同士の対立の深刻さを浮き彫りにする。フランス映画界が背負う独自の歴史は、登場する人物たちに己の芸術性に真正面から向き合うことを強要する。“新しい波”の立役者といえども、その例外たりえず、互いの差異を克明にすぎるくらい認識し、決して交わらない一方通行の道を突き進む。

歴史のお話はこのくらいにして、旅好きのみなさんへ。作中に織り込まれるヌーヴェル・ヴァーグの名作の数々はお宝映像。撮影スタジオから解放された映像には力がみなぎり、背景に記録された当時のパリなどの姿を目の当たりにすると、50年後の今と見比べたくなってしまうことも付記しておきたい。

(旅の誘い度★★


■作品データ

『ふたりのヌーヴェルヴァーグ
  ゴダールとトリュフォー』

ヌーヴェル・ヴァーグ生誕50年記念作品、2009年カンヌ映画祭カンヌクラシック部門正式上映

原題:
 DEUX DE LA VAGUE
(フランス映画/2010年/97分)
監督・製作:
 エマニュエル・ローラン
脚本:
 アントワーヌ・ド・ベック(映画史研究家)
出演:
 フランソワ・トリュフォー、ジャン=リュック・ゴダール、ジャン=ピエール・レオ、イジルド・ル・ベスコ
配給:
 セテラ・インターナショナル
宣伝:
 boid
協力:
 ユニフランス東京
URL:
 『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』公式ホームページ

★新宿K's cinema (東京都新宿区新宿3丁目35-13)にて 7月30日(土)〜9月2日(金)限定ロードショー
以降、全国順次公開


ゴダールとトリュフォー
1957年の短編映画「水の話」は、ゴダールとトリュフォーの共作だった。トリュフォーは「大人は判ってくれない」で先に名を高めるが、脚本の原案をゴダールに提供することで「勝手にしやがれ」が生まれる。二人はヌーヴェル・ヴァーグのシンボルとなり、その友情は永遠だと誰もが思った……

論陣を張るゴダールとトリュフォー
労働者や学生による反体制運動が盛り上がる中、それに連動して第21回カンヌ国際映画祭(1968年)の中止を求め論陣を張る二人。映画祭は要求どおり中止され、その後の「監督週間」誕生のきっかけとなった。この事件を契機に、ゴダールは商業映画の否定と変革の姿勢をさらに強め、トリュフォーはむしろ保守的な映画制作の道を歩み始めることになる

パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ
カンヌ映画祭の会場となる「パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ」。2007年には、映画祭開催60回を記念するロゴ入りの大きな看板が正面入り口上に掲げられていた。階段にはレッド・カーペットが敷かれ、観光客が次々と記念撮影。カンヌに行ったら、ぜひ訪れたいスポットだ

インターコンチネンタル・カールトン
カンヌを代表するホテル「インターコンチネンタル・カールトン」。1911年に完成したベル・エポックを代表する歴史的建造物でもある。1954年には、後にモナコ公妃となるグレース・ケリーが出演した「泥棒成金」(ヒッチコック監督)の撮影が行われるなど、映画との関わりは深い。カンヌ映画祭の期間中は、映画祭に招かれた映画人が世界中から集う

ソフィー・マルソーと名づけられた特別スイート
カールトン・ホテルの最上階には7つの特別スイートがある。これらにはソフィア・ローレン、アラン・ドロンなど著名な映画俳優の名が付けられた。写真は、ソフィー・マルソーと名づけられた特別スイート。船のキャビンを思わせる丸窓からは、地中海を望むことができる。いったいいくらで宿泊できるのか、怖くて聞けなかった

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