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春節の風習、中国「年画」の世界を堪能しよう

「地球の歩き方」編集部:た

公益財団法人日中友好会館にて、5月31日から「年画」と呼ばれる木版画が公開されています。

中国では春節を迎えるにあたって毎年「年画」を新調し、壁に飾る習わしがあります。もとは農民生活の視点から生まれた吉祥祈願、子孫繁栄を願う気持ちを表わした風習のひとつで、描かれる題材は、新しい一年の幸福を願うもの、豊作や商売繁盛を祈るもの、歴史や神話、伝説、戯曲、ものがたり、世俗風情、山水花鳥などなど、多岐にわたっています。

お高くとまった芸術ではなく庶民が気軽に買い求めることのできる「年画」は、毎年取り替えられるという性質から、そもそも保存されることのないものでした。

また一度使った版木は削って翌年再利用したり、文化大革命の際に廃棄されたり、あるいは安く大量に印刷できる石版印刷が西洋から入ってきたことで木版そのものが廃れたりと、いろいろな条件が重なったため、古い時代の「年画」はほとんど残っていないと言われています。

チ54「趙子龍単騎救主」

『趙子單騎救主』 三国志演義第41~42『當陽長板坡』の続きを描く

ところがその「年画」は、我々の住む日本に数多く残っていました。

今回は、早稲田大学図書館と早稲田演劇博物館が所蔵する約50点の貴重な「年画」がお披露目されています。

例えば入口から見て左奥に展示されている『三国志演義』の作品群は、大きな作品なのに紙が薄いなど扱いが難しく、滅多に外に出されることはありません。巧みに描かれる人物の表情や彩色の筆捌きがわかるほど近くで見られるこの展示は貴重な機会です。

また、この『三国志演義』をはじめ"芝居"を描いた年画がまとめて紹介されるのは、おそらく日本で初めてではないでしょうか。それは、芝居は上演のたびに脚本が変わるため、詳細な記録が残されているかそのとき観た人でないとわからないことが多く、個々に解説を付けるのが非常に難しいからです。

その点今回は、場面や人物の説明はもちろん、制作された背景などにも触れた研究者による解説文が1点1点に添えられているので、画の意味をより深く理解しながら鑑賞することができます。

ヲ60「沈萬三発財」

『沈萬山發財』 伝説の富豪の金満ぶりを描く

「年画」は版画の技法を用いて制作されており、まず版木に線画を彫り、これに墨を塗って紙に写し、そのあと色版を4~5版重ね、さらにその上から職人が手で彩色を加えます。発色をよくするための膠を塗り、顔には白い顔料を盛って上から目鼻や頬紅などを描き入れるのですが、この仕上げは熟練した職人だけに任される重要な仕事になっています。

制作現場の様子は、展示室内で上映されている映像で詳しく知ることができます。なかでも、たくさんの年画を効率よく制作するために、画の短い辺を合わせて縦長につないだ状態で壁に貼って色を塗る様子は興味深いところ。横位置の画は当然人物が横倒しになっているのですが、職人は構わず横倒しのままで顔をすいすいと描いていくのです。

会場には、年画を刷るための道具も飾られています。現役の職人から借りてきたそれらの道具類は、今年の制作が佳境に入る前までには返してほしいと念を押されているのだとか。刃先がやや弧を描いているため馬蹄刀とも呼ばれる、主線を彫るための線刀や、版木に色を塗るための刷毛、それを紙に写すとき使うバレン、彩色のための筆など、年季の入った道具にも注目してみましょう。

「年画」は一年中制作されていますが、正月休みが明けて夏くらいまではそれほど忙しくないため、描き込みも細かく全体にていねいに仕上げられます。ところが秋になって翌年の春節のための仕入れが始まり、ひと〆ふた〆(※)と注文が入り出すと現場は慌ただしくなり、時間や気持ちの余裕がなくなって急いで描くためでしょう、塗り方や塗る範囲が端折られたりしがちになるのだそう。前述のとおり壁に貼って彩色しているため、墨や絵の具が流れたりすることもあるのだとか。もちろん今回の展示品には、絵の具の流れた作品は含まれていません。
(※)ひと〆は2000枚

チ19「白蛇伝:断橋亭」

『白蛇伝』 白い蛇の変身した美女と人間の若者との悲恋を描く

見逃さずに見ていただきたいのは『蘇東坡観石完硯』という作品です。なんと敢えて"裏返し"にして展示されています。監修の三山 陵先生が、来場された方に「年画」の紙の薄さと版木がそのまま写された墨線の美しさとをぜひ知っていただきたいと願い、わざとこのような見せ方をされました。横には表面の写真が添えられています。線画の上から彩色し、改めて表情を描き入れている完成作と比較すれば、もともとの人物の表情がずいぶん違っていることにも気付かされるでしょう。目や鼻の描き込み、生きいきした様子は彩色を手がける職人の力量(そして制作にかけられる時間)によって変わるという「年画」制作の裏事情も"透けて"見えることと思います。

日中友好会館での展示は6月23日まで。そのあとは、展示作品と解説がまとめられた書籍で楽しむこともできます。
フルカラーで楽しむ 中国年画の小宇宙-庶民の伝統藝術- (三山 陵:編著 勉誠出版 2,940円税込)は6月下旬配本予定とのこと。

実物を鑑賞されてから書籍をじっくり読めば、来年の春節にはご自宅に飾りたくなるかもしれません。「年画」で有名な「楊柳青」という古鎮は、天津から西におよそ15km。楊柳青年画館もあるこの町を訪れて、お気に入りの「年画」を手に入れるのも楽しいですね。

ヲ23「九曲明珠」

『九曲明珠』 孔司と弟子の諸国漫遊伝説を描く

小説(ものがたり)・戯曲(しばい)を描く
――中国木版年画展

会期:
2013年5月31日(金)~6月23日(日)
開館:
10:00~17:00
休み:
水曜日
料金:
無料
場所:
日中友好会館 美術館
交通:
都営地下鉄「飯田橋」駅C3出口より徒歩約1分、JRおよび東京メトロ「飯田橋」駅より徒歩7分、東京メトロ「後楽園」駅より徒歩10分
お問い合わせ先:
公益財団法人日中友好会館 文化事業部
TEL:
(03)3815-5085
住所:
〒112-0004 東京都文京区後楽1-5-3
URL:
日中友好会館のサイト>同展のページ
主催:
公益財団法人日中友好会館
監修:
三山 陵(大東文化大学大学院講師)
出展協力:
早稲田大学図書館、早稲田大学演劇博物館
協力:
日中藝術研究会
後援:
中華人民共和国駐日本国大使館、公益社団法人日中友好協会、日本国際貿易促進協会、一般財団法人日本中国文化交流協会、社団法人日中協会

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