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スロヴェニア編〜ポプルトゥニク〜
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クリスマスの伝統お菓子
スロヴェニア編〜ポプルトゥニク〜

地球の歩き方編集部:欧羅巴三太


この時期クリスマスに向けて華やぐヨーロッパで、昔から愛されている定番のお菓子を集めてみました。前回の特集に続く第5弾はスロヴェニアのポプルトゥニク(Poprtnik)をご紹介します・・・

地球の歩き方編集部:欧羅巴三太



クリスマスの伝統お菓子今年も残すところわずかとなりました。大切な人との語らいに、がんばった自分へのご褒美に、甘いお菓子でひと息入れませんか? この時期クリスマスに向けて華やぐヨーロッパで、昔から愛されている定番のお菓子を集めてみました。
ヨーロッパのクリスマス伝統お菓子、第6弾はスロヴェニアのポプルトゥニク(Poprtnik)をご紹介します。
■⇒第1弾 ドイツのシュトレン(Stollen)はこちら■⇒第2弾 ベルギーのスペキュロス(Speculoos)はこちら■⇒第3弾 スペインのトゥロン(Turron)はこちら■⇒第4弾 フランスのトレーズ・ディセール・ド・プロヴァンス(13 desserts de Provence)はこちら■⇒第5弾 イタリアのゼルテン〜アルト・アディジェ風(Zelten dell'Alto Adige )はこちら■⇒第7弾 イギリスのミンスパイ(Mince Pie)はこちら■⇒第8弾 イギリスのクリスマスプディング(Christmas Pudding)はこちら
クリスマスの伝統お菓子
クリスマスの伝統お菓子スロヴェニアのポプルトゥニク(Poprtnik)
先日(2013年12月)、WASHOKU(和食)がユネスコの無形文化遺産に登録されたというニュースが話題を呼びました。多彩な食材の持ち味を活かし、四季の移ろいや年中行事と深く結びついた長寿食、ということで「和食;日本人の伝統的な食文化」として世界に認められました。
命をつなぐ糧としての本来の役割に加え、その地に根ざした生活文化や歴史・風習などを体現し、後世に伝えられてゆく食文化。日々の営みが累々と受け継がれていくことの時間の重みや創造価値といったものを、改めて考えるきっかけとなった方も多いのではないでしょうか。
今回ご紹介するポプルトゥニクは、スロヴェニアで今年5月に同国の無形文化財に登録されたクリスマスの伝統食のひとつです。英訳に"Christmas bread"とあるように、お菓子というよりほんのり甘いどこか懐かしい味わいのパンです。商業的な華美で洗練された完成度とは反対の、家でお母さんがさまざまな意匠を凝らして手作りする、素朴なぬくもりに満ち溢れた作品がほとんどです。
1900年代中盤までは、スロヴェニア全土でどの家庭でもクリスマスを迎える準備のひとつとして焼かれていました。レシピや見た目は各地方や家庭によってバリエーションがありますが、土台となるパン生地の上に、同じ生地を使った装飾を施すスタイルは共通しています。
ところでスロヴェニアがどこにあるかお分かりですか? アドリア海の西側にイタリア、東側にクロアチアがぐるりと取り巻く沿岸の両者が出合いそうになる北東部沿岸に実は、スロヴェニアの海岸が開けています。まるでアドリア海の奥座敷とでも形容できそうな絶妙な海港部分から内陸部にかけて、東西に長く日本の四国くらいの面積の国土が広がっています。
内陸では北から時計回りにオーストリア、ハンガリー、クロアチアと国境を接し、周辺諸国との往来もアクセス良好。大まかに分類すると、ユリアンアルプスやブレッド湖など北部の高原地帯やその麓の盆地に開けた首都リュブリャーナ、アドリア海岸とそこから内陸に入った、世界遺産シュコツィヤン鍾乳洞で有名なカルスト地方、さらにハプスブルク家の領地支配による文化遺産と天然温泉が魅力の東部地方から成り立っています。
(参考:「どこをとっても絵はがきのような国 スロヴェニア・フォト・レポート」
国境を接する隣国文化との融合や影響も多く、オーストリアとイタリアに近い北部エリアでは、豊富に採れる果物や木の実をポプルトゥニクに練り込むところもあるそうです。おばあちゃんからお母さんへ、そして娘へとレシピが伝えられ、年頃の男の子にとってはこの「ポプルトゥニクを味見させてよ」というのが意中の女の子に会いに行く絶好の理由だったという、微笑ましい口実もまかり通っていたそう。9軒のポプルトゥニクを味見できた男の子は、来年までに結婚できる!なんていわれていたそうですよ。
ポプルトゥニクの基本材料は、小麦粉、イースト、バター、卵、牛乳、砂糖、塩、そしてラム酒などの香り付けやナッツ、ドライフルーツ、ハーブなど。生地の半分を土台にし、残り半分を装飾用に使います。
飾りつけの代表的なモチーフは、編み込んだ紐飾りや鳩、王冠、星、花、十字架、幼子イエスやその名を表すIHSの文字(Iesus Hominum Salvator;ラテン語で救い主イエスの意)、おくるみ、東方の三賢人といったものが多く用いられます。シンプルに三つ編みや花模様だけで模ったものや、こんもりした土台の上に上手にイエス誕生の場面を再現してみせるさながら人形劇の舞台のようなものまで、一つひとつに個性があって見る者を飽きさせません。
クリスマス前日に焼くのが普通ですが、クリスマス当日と元旦、1月6日の公現節(東方の三賢人がイエス誕生の祝いを述べに来た日)の3回にわたってポプルトゥニクを食べたとも、また3回とも前日にそれぞれ焼いたともいわれています。
キリスト教と密接なつながりがあるものの、その歴史は紀元前にまで遡ると唱える説もあり、ポプルトゥニクという名前も焼き上がりから食卓に並べられるまで布巾で覆う(cortnik)を語源とするほか、呼び名もpomi?nikや?npnik、mi?nik、stolnikなど数多くあります。
興味深いのは、ポプルトゥニクには魔除けや浄化する力が宿ると信じられており、お守りとして家の玄関や軒下に吊るしたり、家畜が健康に肥立つよう与えたり、豊作を願って畑に屑を撒いたり、水害・旱魃除けにもなると考えられていました。
さらにはポプルトゥニクを取り分けたかたちで将来の新郎がどちらの方角に住んでいるかや、ちぎった大きさから子どもの背がどのくらい伸びるかなどという占いもしたそうです。面白いですね。
日本人がお米に聖なる力が宿ると考えてきたように、スロヴェニアの人々にとってもパンには人智を超えた存在との橋渡しとなってくれる特別なパワーが秘められているものなのかもしれません。
残念ながら近代化に伴う食生活の変化によって、一時はすたれかけてしまったポプルトゥニク作りですが、もう一度自国の文化を見直そうという機運の盛り上がりとともに近年、地元のお母さん方が中心となってポプルトゥニク再興のうごきが活発になってきています。
ベテランの作り手だったおばあちゃん達にレシピを教わったり、ご自慢のポプルトゥニクを持ち寄って展示会をしたり、子ども達が楽しんでポプルトゥニク作りを体験するイベントなども催されています。
何を食べるかで、どんな人生を送るかが分かる。そんな思いで、一年の節目となる年末のひとときを飾る食卓を見直してみませんか。

■DATA「地球の歩き方」ガイドブックシリーズなら・・・「ガイドブック A34 クロアチア スロヴェニア」にはスロヴェニアの料理図鑑や郷土料理が食べられる人気都市の個性派レストランなどバッチリ収録。小国ながら驚くほど多様性に富んだ食のバリエーションを、ぜひ体験してみてください。
[2015年12月更新/2013年12月]

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