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ベルリン国際映画祭で最高賞受賞 ルーマニア映画『私の、息子』

ライター(ルーマニア観光局公認アドバイザー)川上・L・れい子
ルーマニアらしい「社会派映画」の傑作がいよいよ公開される。カリン・ペーター・ネッツァー監督の『私の、息子』。2013年のベルリン国際映画祭で、最高賞・金熊賞と国際映画批評家連盟賞をダブル受賞した作品だ・・・

ライター(ルーマニア観光局公認アドバイザー)川上・L・れい子

待望のルーマニア映画が、いよいよ公開される。その映画とはカリン・ペーター・ネッツァー監督の『私の、息子』。2013年2月に開催された第63回ベルリン国際映画祭で、最高賞の「金熊賞」と「国際映画批評家連盟賞」をダブル受賞した作品だ。

ルーマニア映画といえば、1990年代から世界の注目を集め始め、2007年の第60回カンヌ国際映画祭でクリスティアン・ムンジウ監督が、『4ヶ月、3週と2日』で最高賞「パルム・ドール」を獲得することで、一旦ピークを迎える。その後も彼の作品は世界的に注目され、第65回カンヌ国際映画祭では『汚(けが)れなき祈り』(取材日記blog「カンヌ映画祭で2部門受賞の注目のルーマニア映画」2013年03月13日 の記事)がコンペティション部門で「脚本賞」と「主演女優賞」を受賞した。

本作はムンジウ監督作品に続く、ルーマニア映画のひとつの金字塔であり、ルーマニアらしい「社会派映画」の傑作である。

ひとり息子バルブと子離れできない母親コルネリア
30歳を過ぎても自立できないひとり息子バルブ(右)と子離れできない母親コルネリア(左)との葛藤と愛情の物語。親であり、子である誰もが通ってきた道だけに、観る者はスクリーンに引き込まれてしまう

首都ブカレストに住む裕福な母コルネリアは息子バルブの態度が気に入らない。恋人のこと、買い与えた家で好き勝手にすること、自分の誕生日パーティーに顔を出さないこと……。そんな中、バルブが交通事故で子どもを死なせてしまう。コルネリアは必死にコネや財力でバルブを守ろうとするのだが、その気持ちはバルブに伝わらない。母の過保護が疎ましくすれ違う日々、親子のあり方に問いかけをする内容だ。


「ヌーボー・リッチ」と呼ばれるルーマニア上流階級
「ヌーボー・リッチ」と呼ばれるルーマニア上流階級。そんな社交界の名士が集まるコルネリアの誕生日のパーティー。しかし息子バルブは顔すら出さない。息子への不満は募るばかり

いくつになっても子を想う親の気持ちは同じ。「目に入れても痛くない」のが我が子。皆そうやって親に育てられている。だが子どもの人生は親のものではない。息子のことを「私の人生の全てです」と涙ながらに語るくだりは理解できるが、子どもから少しずつ手を離し、少しずつ遠くから見守り、心は寄り添えるように――そのバランスは簡単なようで難しいのだろう。とりわけ子どもにとって母の存在は大きいもの。母と息子の関係で、マザーコンプレックス(マザコン)と日本で表現される関係は世界中に存在し「困ったわ」と笑って肯定的に捉えられるものから、悲劇を招くものまである。


バルブの恋人カルメンはシングルマザー
バルブの恋人カルメン(右)はシングルマザー。そんな息子の恋人もコルネリアの不満のタネに。コルネリアの知らない息子の一面を知るカルメンは、大きな役割を果たすことになる

「母と息子の関係を病理学的に描いた」と言うカリン監督は1975年生まれの39歳、映画の中の息子バルブと同年代だ。本作は女性だけでなく、男性世代からも共感されているという。監督は幼少期に両親とドイツに移住、その後ルーマニアに戻りブカレストの大学で映画監督の勉強を始めた。外国から母国に戻ったことでよりリアルに、この映画の背景となった「登場人物たちが生きる社会のリアリティー(『プロデューサーズ・ノート』から)」――ルーマニアの汚職や腐敗、貧富の差――を的確に描くことができたのではないか。こうした社会の歪みが受賞によってクローズアップされるのは、ルーマニアにとっては名誉なことではない。実際、映画冒頭で示唆された医療現場から学位取得や就職活動まで、多くの場でそれは知られている。ひょっとすると、観光で滞在する際に感じることがあるかもしれない。

革命後の混乱を経て、ルーマニアが社会主義から本当の意味で資本主義へ移行するにはまだまだ時間がかかる。現在の変革期には問題も顕著になる一方で、変わっていきたいと願う社会や人々の明るく良いエネルギーもたくさん感じられる。普遍的な親子問題の背景にルーマニアの問題を重ねて発信した監督も きっとそんな今のルーマニアをアピールしたかったのかもしれない。


主人公のコルネリアはセレブリティ
主人公のコルネリアはセレブリティ。彼女の姿を通して親子の問題ばかりか、ルーマニア特権階級の現実やルーマニアの社会に巣食う腐敗の実態までも垣間見ることができる

最近よく聞く「モンスターペアレント」のような親の問題、そして親との関係に悩む子ども自身の問題、国によって形は違えど共感できる作品、多くの世代に観てほしい。
■作品DATA

『私の、息子』

原題:Pozitia Copilului(英題:Child’s Pose)
(2013年/ルーマニア/カラー/112分)
監督:カリン・ペーター・ネッツアー
脚本:ラズヴァン・ラドゥレスク、カリン・ペーター・ネッツアー
出演:ルミニツァ・ゲオルギウ、ボグダン・ドゥミトラケ、イリンカ・ゴヤ、ナターシャ・ラーブ、フロリン・ザムフィレスク、ヴラド・イヴァノフ
製作:パラダ・フィルム
協力:ハイ・ファイ・エンタテインメント
後援:ルーマニア大使館
配給・宣伝:マジックアワー
公式サイト:『私の、息子』公式ホームページ

★6月21日(土)より、Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー

※このページで使用した場面写真の著作権は Parada Film in co-production with Hai-Hui Entertainment が有しています。
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