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“生きること、人間であること”を直視する81分間/映画『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち

「地球の歩き方」編集部プロデューサー 栗橋大吉
山岳史上最も困難とされる救出の記録映画。登場人物の口からは驚くほど単純明快な言葉となって紡ぎ出される“生きること、人間であること”・・・

「地球の歩き方」編集部プロデューサー 栗橋大吉


「英雄なんかじゃない、ただ助けたかった。なぜなら─それが人間だ。助け合ってこそ人は生きられる。それだけだ」

この言葉に損得勘定は一切ない。名誉も金も、そんなものは眼中になかった。この登山家は、ただただ、ひとりの人間を助けるために自らの命を顧みずに救援に向かったのだ。

2008年5月、スペインの登山家イナキ・オチョア・デ・オルツァはアンナプルナ第一峰(8,091m)を目指していた。頂上へのアタックも目前というタイミングで、イナキは重度の高山病を発病し、危険な状態に陥る。これに気づいた同行者のルーマニア人登山家ホリア・コリバサヌは「SOS」を発した。

地上で最も過酷な場所からの「SOS」、だがこれに応じればわが身も危険にさらすことになる。そこは「死の山」と呼ばれるアンナプルナの第一峰を目指す南壁ルートの途上、標高7400メートルの尾根――イナキ隊の第4キャンプである。このルートは、登山者の5人に2人が命を落とすという世界で最も危険な場所である。百戦練磨のアルピニストといえども、まさに命をかけて赴かねばならない。

それにもかかわらず、この「SOS」に応えたアルピニストたちがいた。そのときカトマンズやその付近にいたスイス、カザフスタン、ロシア、カナダ、ポーランドなどの登山家がすぐさま応じ、ネパールのシェルパの協力を得て救援に向かったのである。即席の救援チームだったが、それぞれが本物のプロフェッショナル、やるべきことを的確に遂行、無駄な動きはまったくない。だが「死の山」アンナプルナが相手、悪天候が彼らの行く手を阻み、救出は困難を極める。イナキの命は風前の灯だった。

「みんな必死だった。ロシア人にカナダ人、ルーマニア人、カザフスタン人など、世界中の人々が心を合わせ力を合わせた。あの時アンナプルナにいた俺たち全員がひとつになって、同じ目的に向かっていた。それぞれが心の中に譲れない強い想いを同じように抱いていた。自分の命を危険にさらしてまで勝ち目の薄い戦いに挑んだんだ」

映画は、山岳史上最も困難とされる救出の記録であり、数年後にこの救出劇に関わった人々のもとを訪ね、彼らの言葉を丹念にひろった貴重な証言集である。一切の飾り気がそぎ落とされた彼らの言葉の数々は、純粋で重い。「登山とは」「生きるとは」「絆とは」「人生とは」「人間とは」、文字にすると深遠なテーマだが、彼らの口からは驚くほど単純明快な言葉となって紡ぎ出される。彼らに「人として」迷いはないのだ。こんな時代だからこそ、彼らの言葉から「希望」と「勇気」を感じてほしい。

それにしても、わが国のメディアで垂れ流される虚飾にまみれた為政者の言葉といったら――「人として」絶望的だ。登山家たちの爪の垢でも煎じて飲ませたい。


※アンナプルナとは?
ネパール・ヒマラヤの中央に東西約50kmにわたって連なる、ヒマラヤ山脈に属する山群の総称。最高峰8,091mは世界第10位の標高。難易度は特A級。雪崩が多い山としても知られている。

■作品DATA

『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』

原題:pura vida/the ridge(2012年スペイン、81分、ステレオ)
監督・脚本:パブロ・イラブ、ミゲルチョ・モリナ
制作総指揮:イゴール・オーツォア
出演:イナキ・オチョア・デ・オルツァ、ウーリー・ステック、ホリア・コリバサヌ、デニス・ウルブコ、アレクセイ・ボロトフ、セルゲイ・ボゴモロフ、ドン・ボウイ、ニマ・ヌル・シェルパ、ミングマ・ドルジ・シェルパ、ミフネア・ラドゥレスク、アレックス・ガヴァン、ロベルト・シムチャク、ナンシー・モリン

映画祭受賞歴:
 2012年サン・セバスチャン国際映画祭セルビツ・サリア賞
 2012年ビルバオ・メンディ映画祭最優秀山映画賞
 2013年ムルシア市映画祭ドキュメンタリー映画部門審査員特別賞
 2013年トレント国際映画祭イタリア・アルプス・クラブ賞
 2013年バルセロナ・スポーツ映画祭最優秀作品賞

配給:ドマ
配給協力:スターサンズ
公式サイト:『アンナプルナ南壁 7,400mの男たち』公式ホームページ
★9月27日(土)より ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー


※このページで使用した場面写真の著作権は Arena Comunicacion SL. が有しています。
©2012 Arena Comunicacion SL.


■関連DATA

Twitter投稿キャンペーン“生きること”を感じるフォトコンテスト
山やアウトドアで撮影した“生きること”を感じるようなお気に入り写真を公募期間中(応募締切 2014年9月27日)にツィートすると、投稿された写真の一部が映画公式 Facebook ページに掲載される。公募締め切り後には、各賞に選ばれた作品に人気のアウトドア10ブランドより豪華な賞品が贈られる。

★各ブランド賞と賞品★
 BEAMS賞:アークテリクス×ビームス 2ウェイ バッグ
 Mountain Hardwear 賞:サミットロケット30
 Marmot賞:スピード・ライト・ジャケット
 Suunto賞:アンビット2
 Patagonia賞:ナノエア・フーディー
 The North Face賞:ヌプシジャケット
 Mammut賞:アルパインバックパック トリオン・プロ
 IWATANI-PRIMUS賞:フーチュラ32/ドイタ―
 石井スポーツグループ賞:ロックヘルメット/K2
 好日山荘賞:ペアーライト/マジックマウンテン

詳しくは下記特設サイトで
“生きること”を感じるフォトコンテスト



Cafe pedia
イナキ・オチョア・デ・オルツァ(1967年5月29日〜2008年5月23日)はスペインのベテラン登山家。アンナプルナを背に、カメラに向かってアタックへの抱負と恐れを語る。強さだけではない、謙虚さもあわせ持った人だ。そんな彼は「SOSヒマラヤ基金」を立ち上げ、ヒマラヤの子供たちを支援する活動を続けていた。今は彼の家族が基金を運営している

Cafe pedia
慎重に登攀していくイナキ。世界のトップ14座のうち12峰の無酸素登頂に成功するなど実績も経験も十分。彼ほどの登山家でさえ、アンナプルナの前では無力だった。映画は、彼が懸命に生きようとする姿を克明に伝えてくれる。そして命の灯が消えるまでのすべてのことも

Cafe pedia
カナダの登山家ドン・ボウイ。カメラは、この救出活動に関わった12人を世界各国に訪ね、当時を振り返る。人間として生きること――この信念に貫かれた彼らの言葉には、心を鷲づかみにされるような力強さがある。絶望の淵にあっても希望を捨てない彼らの生き様は、我々に勇気と希望を与えてくれる

Cafe pedia
国籍を異にする12人の関係者。このうちの5人には登山界の最高の名誉とされるピレオドール賞の「登山の精神賞」が与えられた。同賞が与えられたのは、賞の創設以来この救出活動に対してのみである。受賞者のひとりロシアの世界的登山家アルクセイ・ボロトフ(写真右からふたり目)は2013年5月、エベレストで命を落とした

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