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チベット人監督の『草原の河』は4月29日より公開!
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寡黙なのに雄弁な映画。
チベット人監督の『草原の河』は4月29日より公開!

「地球の歩き方」編集者:た

父と娘、'河'を眺めそれぞれに何を思うのか ©GARUDA FILM

父と娘、"河"を眺めそれぞれに何を思うのか ©GARUDA FILM

日本で初めてのチベット人監督による劇場公開作」と銘打たれたこの『草原の河』は、ソンタルジャ監督が『陽に灼けた道』に続いて制作した2本目の長編。監督の故郷でもある中国青海省の南、アムド地方の広大な草原とともに暮らす親子の心の動きを、静かに追う作品となっています。

派手な動きはなく、オーバーなセリフ回しもありません。無言。伏せられる視線。凝視する目。光と影。そよりとゆらぐ空気。そういったカットを積み上げ、発せられるセリフは本当に必要最小限なのに、今父親はどういう気持ちなのか、娘は何を思うのか、十分過ぎるほど伝わってくる作りは、ともすれば大袈裟に長セリフを言い募りエキセントリックに感情を爆発させるやりとりで話を強引に進めるようなドラマとはまったく対照的で、ああ、伝えたい情報を映像できちんと捉えていれば、セリフなんてほとんどなくても通じるんだなあ、ということを再発見させてくれます。

無口なグルはしばしば煙草を吸う。たいていは何かいやなことから逃避しているとき

無口なグルはしばしば煙草を吸う。たいていは何かいやなことから逃避しているとき

またその映像も、普通の監督なら当然そこを撮って見せているでしょうという物語上のちょっと大事なシーンでも、肝腎の動作そのものは撮らず、前後の絵だけで想像させる作り方をしています。ネタバレになるので具体的に言及するのは避けますが、例えば野球で打者がホームランを打つシーンを表現するのに、打つ瞬間とボールがスタンドに入るカットは省いて、投手の投げたボールに対して構える打者を見せ、次のカットでは観衆のどよめきの中で悠然とベースを回る打者の姿を映すようなやり方です。打ったところや打球がどこへ飛んだのかを直接見せられていなくても、打者がホームランをかっ飛ばしたらしいことはわかります。そういう「今起きたことを観客の想像に任せる」絵作りが少なくとも2ヵ所は出てきますので、ソンタルジャ監督は意識して映像を敢えて省く編集をしているものと思われます。

このような作風で語られる『草原の河』は、母のお腹に赤ちゃんが宿ったことで自分の立ち位置に漠然とした不安を感じる娘ヤンチェン・ラモと、出家している祖父に対するわだかまりを解けないまま数年を過ごしてきた息子(ヤンチェン・ラモの父)グルとが、それぞれの心の内を明かさないまま不器用に過ごす姿を、季節の移り変わりとともに変化する広大なアムド地方の草原風景とともに映し出すお話しです。

'おねだり'してもけんもほろろな母に、ご不満なヤンチェン・ラモ ©GARUDA FILM

"おねだり"してもけんもほろろな母に、ご不満なヤンチェン・ラモ ©GARUDA FILM

グルがなぜ自分の父にわだかまりを持っているのか、ついに無口なグル自身の口から語られるのは物語のずいぶんあとのことですが、この映画で最も長く、故に説明的に聞こえがちなそのセリフをワンカットで見せるシーンも、ソンタルジャ監督ならではの独特な画角で表現されていますのでお楽しみに。

映画を最後まで見終えたとき、原題の『河/River』は、グルのわだかまりが生まれた一因を示すとともに、いずれ誰に言われるともなく自分の気持ちに折り合いをつけていくグルとヤンチェン・ラモそれぞれの心を妨げていた何かを象徴しているかのように感じられることでしょう。

――河があるから渡れない
――河があるなら渡ろう

同じように横たわる"河"も、それに向き合う自分自身の気持ち次第で、見え方が違ってくるのかもしれません。

史上最年少で上海国際映画祭アジア新人賞最優秀女優賞を受賞したヤンチェン・ラモ(本名)の微妙かつ見事な表情の変化から目が離せない

史上最年少で上海国際映画祭アジア新人賞最優秀女優賞を受賞したヤンチェン・ラモ(本名)の微妙かつ見事な表情の変化から目が離せない

昨年公開されたチベットを舞台とする『ラサへの歩き方~祈りの2400km』(4月29日にDVD発売!)と同様にこちらの映画も政治的に無色透明ですので、みなさま心穏やかにご鑑賞いただけます。

ご覧になる前に公式サイトの「監督からのメッセージ」を、またできればパンフレットをお求めになって「ソンタルジャ監督へのインタビュー」と星泉先生による作品解説とに目を通されますようおすすめします。映像のディテールに対する興味がぐっと増すこと請け合いです。

本筋からは外れて恐縮ですが個人的に印象に残っているシーンをひとつ。父娘でオートバイ(中国大手メーカー豪爵/Haojue製)に乗って出かけた帰り、赤ちゃんのことで煮え切らない態度のヤンチェン・ラモを、めんどうくさくなった父グルが草原に置き去りにして帰ろうとします。置き去りにされたヤンチェン・ラモが姿の見えなくなった父の背中を小走りで追う姿を後ろから映しているのですが、彼女の先に続く一本道の長さと草原の広大なことといったら!

はるか遠くにはおそらく6000メートル級と思われる山脈がほんのり霞んで横たわり、多少の起伏を見せながら枯れた草が果てしなく広がる様は、いい歳をした大人でもここに取り残されたらちょっと涙目になるくらいの豪快な置き去りっぷり。グルは思い直して引き返しては来るのですが、やや小高い所から見る娘の姿は豆粒のよう。だだをこねる子供を「先に行くよ!」と突き放して置いていくふりをする手法は日本の親子関係にもあることですが、さすがは草原の民、スケールが違います。

あ、そうそう、幼いヤンチェン・ラモの相棒を演じるジャチャ(子羊)に触れるのを忘れていました。ジャチャ、メェ演です(最後の最後にダジャレか)。

羊の角を削ってジャチャ用の哺乳瓶を作るグルの手元を見つめるヤンチェン・ラモと、自ら製作現場に立ち会うジャチャ(画面右端) ©GARUDA FILM

羊の角を削ってジャチャ用の哺乳瓶を作るグルの手元を見つめるヤンチェン・ラモと、自ら製作現場に立ち会うジャチャ(画面右端) ©GARUDA FILM

■『草原の河』

上映日程:
2017年4月29日(土)より、岩波ホール(東京神保町)にて
以後、北海道(札幌、苫小牧)、岩手(盛岡)、宮城(仙台)、長野(松本)、静岡(浜松)、愛知(名古屋)、岐阜(柳ヶ瀬)、三重(伊勢)、大阪(十三)、兵庫(新開地)、岡山(岡山)、広島(横川)、鹿児島(天文館)にて順次上映
配給:
ムヴィオラ
監督・脚本:
ソンタルジャ
撮影監督:
王 猛
出演:
ヤンチェン・ラモ(ヤンチェン・ラモ)
ルンゼン・ドルマ(母ルクドル)
グル・ツェテン(父グル)
原題:
River
公式サイト:
www.moviola.jp/kawa

98分/中国/2015/COLOR/チベット語/DCP/ビスタサイズ/ステレオ

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■書籍

ラサへの歩き方 祈りの2400km

監督:
チャン・ヤン
形式:
DVD
出演:
チベット巡礼の旅をする11人の村人
発売日:
2017/04/29
時間:
118 分
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